高齢化社会を支える二つの制度を知っていますか?

昨今の高齢化の状況について、「平成23年版高齢社会白書」によると、平成22(2010)年の高齢化率は23.1%で、前年の22.7%と比較すると増加傾向にあります。これは、現役世代(15〜64歳)2.8人で高齢者1人を支えていることになります。高齢化率というのは、総人口に占める65歳以上の人口の割合をいいます。国際連合の報告書によると、高齢化社会というのは65歳以上の人口が全体の7%になることをいい、倍の14%になる社会を「高齢社会」と呼ぶそうです。日本は昭和45(1970)年に「高齢化社会」に突入し、24年後の平成6(1994)年には「高齢社会」に突入しています。そして、平成19(2007)年には21%を超える「超高齢社会」となり、平成25(2013)年には25%に達すると予想されています。国民の4人に1人がお年寄りの時代がもう目の前に迫っていることになります。このまま高齢化が進むと、13年後の平成36(2024)年には30%になると見込まれています。

また、同じく「平成23年版高齢社会白書」によると、65歳以上の高齢者のいる世帯は全体の4割で増え続けています。また、そのうち世帯構成別の構成割合でみると、三世代世帯は減少傾向である一方で、単独世帯、親と未婚の子のみの世帯は増加傾向にあります。また、平成21(2009)年現在、単独世帯と夫婦のみの世帯をあわせると半数を超える状況になっています。このことは、いわゆる、「おひとりさま」が、その予備軍も含めて増えつつあるということです。

こうした高齢化の状況で、そうした社会を支えるしくみとして、平成12(2000)年4月に成年後見制度が導入されました。この制度は、アルツハイマー病、ピツク病、脳血管障害などの認知症の高齢者等の身上監護を重視し、これに配慮した適切な財産管理を実現するためのものです。また、これと併せて、介護保険制度が導入されました。この制度は、高齢者等が、骨折・転倒、脳卒中(脳出血・脳梗塞等)等の病気により身体が不自由になったり、認知症になってしまった場合に、その後の、本人の自立支援を目的とし、介護サービスの提供のように、本人の手となり足となるような事実行為としての身上監護(生活・療養看護)を実現するためのものです。


介護保険制度は、「介護の社会化」を理念として、家族による介護の負担軽減や老後の不安解消のため、介護を家族だけでなく社会全体で支えるしくみとしてつくられました。

また、この制度の、本人の自己決定を尊重するという「利用者本位」の理念から、介護サービスの提供が「措置から契約」に変更されたということです。つまり、今までは市町村(つまり行政)が「措置」として、その裁量で市町村の都合が優先される画一的な介護サービスが利用者に提供されてきましたが、「契約」に変更されたことにより、利用者が直接、自らが必要としている介護サービスを選択し、そのサービスを提供する事業所と契約することができるようになったのです。これにより、画一的でない、利用者本意のサービスを選択することができるようになりました。しかし、一方では、「措置」であれば、その手続きは、市町村(つまり行政)がやってくれましたが、「契約」では原則、自分でやらなくてはなりませんので手間暇がかかります。また、介護サービスを必要としている人は、自分で契約ができる人ばかりとは限りません。認知症等で判断能力が衰えているために、そうした情報を得ることができなかったり、その契約内容を理解できない人もいるわけです。そうなると、そうした人はまともな契約をすることができませんから、必要な介護サービスを受けられないとう不利益を受ける恐れがあります。

こうした不利益を受けることがないようにするための権利擁護のしくみが、もう一つの制度である成年後見制度になります。



これらの二つの制度が導入されて、11年が経過したわけですが、介護保険制度はかなり私たちに知られ定着しましたが、成年後見制度は、まだまだ知らない人が多いのではないのでしょうか?

それでは次に、この成年後見制度についてお話しをさせていただきます。
まず、この成年後見制度の目指すところ、つまり理念は何でしょう?
成年後見制度の新しい理念は、認知症の高齢者等の本人の自己決定権の尊重です。これは大きく分けて三つあります。一つは自己決定の尊重、そして二つ目が、残存能力の尊重・活用、そして最後にノーマライゼーションです。最初の自己決定の尊重ですが、権利擁護で最も大切なことは、誰からの影響も受けることなく自分のことは自分の意思や判断で決めることができることだと考えています。これは、人というのは、自分の思い(意思)が尊重され、それが実現されてこそ生きがいや幸せを感じるわけですから、これを最大限に尊重して、できるだけそれを目指しましょうということです。次に残存能力の尊重・活用ですが、これは、自分の状況を理解し、物事を判断する能力というものは、完全に失うということは稀で、何らかの残存能力を保持しているのであるから、これを尊重、活用することが、自己決定権を尊重することになるという考え方です。これは、できるだけ自分のことは自分でしてもらいましょう。それが本人のためになることですという考え方ですが、その一方で、認知症などで能力の衰えた人が困らないように手を差し伸べて保護することも必要なことですから、そのバランスを考えながら、それを目指しましょうということです。最後にノーマライゼーションですが、これは、認知症や知的障害、精神障害などで能力の衰えている社会的に弱い立場の人たちでも、一般社会で等しく普通に生活できる社会を実現していきましょうというものです。こうした社会を実現するには、誰もが同じように利用でき、そして利用しやすい物や環境を作っていくことが必要になります。いわゆるバリアフリーの考え方もその一つになります。

成年後見制度は、こうした自己決定権の尊重という新しい理念と従来からの本人の保護の理念との調和をはかり、人それぞれのさまざまな能力(判断能力)と、その必要とする保護の程度に応じて、柔軟かつ弾力的な対応ができるような利用しやすいしくみとしてつくられました。


こうした成年後見制度の理念を実現するためのしくみとしては、大きく分けて二つあります。
法定後見制度と任意後見制度です。
さらに、法定後見制度は補助、保佐、後見に分かれます。


なお、従来、この成年後見制度にあたる制度として、禁治産と準禁治産の二つの制度がありましたが、禁治産すなわち「治産(財産の管理・処分)を禁ずる」という用語の問題や、これらの宣告の公示方法が、その事実を官報に公告し、家庭裁判所の掲示板に掲示するとともに、これらの制度により置かれた後見人・保佐人の届出等により本人の戸籍にその宣告の事実を記載する方法が採られ、これらを宣告されることに、本人や家族等の関係者に心理的抵抗感があったこと、そして、人それぞれの能力(判断能力)や保護の程度は、さまざまであるにもかかわらず、二つの制度の法的効果が定型的に法定されていて硬直的であり、その必要とする保護の程度に応じて、柔軟かつ弾力的な対応ができないなど、利用しにくい制度であるとの指摘がありました。

そこで、これらの点を改善したのが、この成年後見制度ということになります。
なお、この成年後見制度の施行により、本人のプライバシーに配慮して、禁治産・準禁治産の宣告を戸籍に記載する公示方法に代えて新たな登記制度が創設され、この登記された記録(内容)の証明書等の交付を請求できるのは、登記された記録に記載されている者その他交付を受ける必要のある一定の者に限定されています。

次回は、この成年後見制度の二つのしくみである、法定後見制度と任意後見制度について、上の図に記載されている補助・保佐・後見や任意後見契約をふまえたお話しと、これらの制度により保護される認知症の高齢者等の本人を支える、成年後見人や任意後見人等の保護者の職務と権限のお話しをさせていただきます。