認知症に備える成年後見制度について知りたい!

前回お話ししたとおり、成年後見制度は、大きく分けて、法定後見制度と任意後見制度の二つがあります。また、さらに、法定後見制度は補助、保佐、後見に分かれます。

それぞれ簡単に説明しますと、
法定後見制度は、ある人が認知症になってしまった後で、家庭裁判所にその認知症になってしまった方の保護を目的として申立をして、その方の保護者を選ぶものです。

認知症の程度に応じて、その程度が進むにつれて、補助、保佐、後見の申立をして、それぞれ補助人、保佐人、成年後見人と呼ばれる保護者が選ばれます。
その程度としては、補助は、普段の生活や身の回りのことについては、ほとんどのことが自分でできるのですが、最近少しボケてきて、悪徳業者にだまされて必要でないような高額な商品やサービスを買ってしまうのではないかと心配になるような人で、そうならないように、誰かの見守り支援が必要な状態のことをいいます。
保佐は、しっかりしているときもあるのですが、ときどき変なことを言ったりして、不動産などの重要な財産の処分などでは、常に誰かの支援が必要な状態のことです。
後見は、認知症の程度がかなり進んでいて、しっかりしているときがほとんどなくなっている状態のことです。
どれにあたるのかの判断は私たち専門家でも迷うことがあるわけですが、そのような時は、医師に相談して診断書を書いてもらうのがいいでしょう。また、その診断書は家庭際裁判所へのそれぞれの申立の際に必ず添付することになりますので、その準備として、できれば、家庭裁判所所定の診断書に書いてもらうとよいでしよう。



それでは、次に、この法定後見制度において、認知症になってしまった本人が困らないように、どのように本人を保護しているのかと言えば、その保護の方法として、成年後見人等の保護者に2つの権利が与えられています。


一つが代理権で、もう一つが同意権と取消権(追認権)です。
代理権とは、本人が不動産の売り買いやお金の貸し借りをしたり、介護サービスを受けるために事業者にお願いするなどの契約をするときに、本人が認知症で、その契約が自分にとって有利なのか不利なのかが分からない場合があります。そうした場合に本人のために、その有利・不利を判断して、本人に代わって契約をする権利のことをいいます。
同意権と取消権とは、本人のする不動産の売り買いなどの契約に同意を与えたり、それが本人の利益にならないときは、その契約を取り消すことができる権利のことです。
これらの権利が保護者に実際に与えられているかどうかは、本人の意思の尊重や残存能力の尊重・活用の観点から、その認知症の程度に応じて、家庭裁判所によって選任された保護者ごとに異なります。
次に、この法定後見制度での、成年後見人等の保護者の仕事としてはいったい何があるのでしょうか?


保護者の職務、つまり仕事としては、財産管理を中心とした身上監護です。
財産管理とは、本人の資産や負債、収入、支出を把握し、本人のために必要な家賃や電気・ガス・水道等の光熱費等の支払等の支出を計画的に行いながら資産を維持・管理することです。
身上監護とは、介護サービスを受ける契約や老人ホーム等の施設入所契約など、本人の生活や療養監護に関する事務を代わりに行うことです。したがって、この身上監護には、例えば、毎日の買い物の手伝いや実際の身体的介護は含まれません。これについては、ケアマネージャーさんと相談してケアプランの中で、例えばヘルパーさんを週に何回派遣するなどと決めて、実際の身体的介護などは、そのヘルパーさんにしてもらうことになります。また、家を借りるときの保証人になったり、入院、老人ホーム等の施設入所の際の身元保証や身元引き受けをすることはできません。さらに、治療や手術、臓器提供などについての同意をしたり、遺言や養子縁組、認知、結婚、離婚などの意思表示のようなものを代わりに行うこともできません。

次に、成年後見制度のもう一つの柱である、任意後見制度ですが、この制度は、ある人が認知症になる前に、自分が将来認知症になってしまった後で、自分の財産を守ってくれる人をあらかじめ契約で決めておくものです。
この契約を任意後見契約と言います。そして、財産を守ってくれる人を任意後見人といいます。この契約は公正証書で作成します。そして、その契約内容、つまり、何をしてもらうかは、その契約をする人どうしで自由に決めることができます。
この任意後見制度は、いわば、「転ばぬ先の杖」といったものです。
この任意後見制度での、任意後見人の仕事としては、法定後見制度と同様に、財産管理を中心とした身上監護ですが、この任意後見制度における、本人の保護の方法としては、法定後見制度とは異なり、保護者である任意後見人には、同意権と取消権(追認権)はなく、もっぱら、任意後見契約で定めた代理権のみが与えられます。

つまり、認知症になってしまった本人が悪徳業者にだまされて契約をしてしまった場合には、任意後見人が、その契約を取り消すことができないと言うことです。もちろん、契約の時に、本人が既に認知症であったことが証明できれば、その程度にもよりますが契約を無効にするこができる場合もありますし、また、クーリングオフなどの消費者を保護する法律を使って契約をなかったことにすることができる場合もありますので、任意後見人としては、しっかり財産を管理し、本人がそのような契約をしないように見守っていく必要があるでしょう。



次回は、この成年後見制度のお話を押さえていただいた上で、具体例をあげて、この制度の活用方法についてのお話しをさせていただきます。