成年後見制度はどのような場合に必要なのか?

前回の成年後見制度のお話を押さえていただいた上で、具体例をあげて、この制度の活用方法についてのお話しをさせていただきます。

まず,任意後見の例を二つ紹介します。
最初に、紹介例1として、「身体の不調がきっかけで,将来に対する不安な気持ちが急激に高まった!」です。
例えば,ここでは,仮にAさんとしておきますが,そのAさんは長年勤めた会社を60歳で定年退職して、妻と好きな旅行をして楽しんでいましたが、その妻も2年前に他界し、Aさんには子供はなく、兄弟も近くにはいないため、ひとりでの生活が長くなっていました。
そんな折に、身体には自信のあったAさんが,身体に不調を覚え、それがきっかけで、自分がもし入院することになったら日々の生活費の支払いや自宅の管理は誰がしてくれるのだろう?その前に認知症になってしまったら誰が面倒を見てくれるのだろう?
そうした将来に対する不安な気持ちが急激に高まってきました。Aさんはどうしたらいいか悩んでいます。
このような場合、いろいろな解決方法があると思いますが,例えば,再婚するとか,養子縁組するとかでAさんの面倒を見てくれる身内をつくるとか,必要になったら,その都度,Aさんの代わりにいろいろと身の回りのことをしてくれる代理人をたてるとかです。
しかし,身内をつくるといっても所詮,他人ですから,Aさんの財産の使い込みなどの不正が行われないとも限りません。それに、もしそのようなことがあったとしても,誰もそれを止めてくれる人がいません。
そうなると財産を安全に守ることができません。つまり,この場合ですと,その身内を監視する人がいないので問題があるのです。
次に,その都度,代理人を立ててお願いするといっても,Aさんが認知症になってしまったらそのお願いもできません。
それではどうすればいいかといえば,こんな場合こそ,任意後見制度を利用するということになるのです。
任意後見制度では,Aさんが認知症になってしまった場合,家庭裁判所で必ず任意後見監督人が選任され,Aさんの代理人である任意後見人に不正がないかなどの行動の監視をしてくれます。
ですから,Aさんの財産は安全に守られます。それとAさんの亡くなった後のことは,遺言のすすめでお話した遺言書を残せばいいのです。

次に,紹介例2として、「夫が自分のために残してくれたお金を自分のために使いたい!」ですが,この場合も,今は元気でも認知症になってしまったら,夫が自分のために残してくれたお金を自分のために使えるかはとても不安です。それに将来,介護保険を利用する場合でもさまざまな手続や契約が必要になります。
そんなときやはり頼りになるのが任意後見制度です。
この制度を利用すれば,あらかじめ,お金の使い方やさまざまな手続や契約を代わりにしてくれる人を決めておくことができますので,安心して夫の残してくれたお金を使って老後の生活を楽しむことができます。



次に法定後見の例を四つ紹介します。
最初に、紹介例1として、「妻は夫が認知症になったら夫の預金を下ろせるのか?」です。
今は,どこの金融機関に行っても預金を下ろす場合,本人確認がうるさくなっています。それはある意味,本人の財産を守ることになりますから仕方がないことです。
ただ,そうなると,たとえ妻であっても,夫が認知症で金融機関に来れないとか,来ても本人の意思がはっきりしないと預金は下ろせません。
その場合は,夫の預金を下ろしたいのであれば,やはりその夫の認知症の程度に応じた,法定後見制度を利用することが必要になります。

次に、紹介例2として,「一人暮らしの高齢の母が悪徳業者の餌食にされてしまう?!」です。
昨今は核家族化が進み,なかなか年老いた両親のそばに子供たちが住むということが少なくなっています。また,地域とのつながりも薄くなり,年老いた両親は,とくにおひとりになると孤立していきます。
そうすると言葉巧みにいいよって親切をよそおう悪徳業者の餌食となり,なけなしの老後の生活資金が「あっ」というまに奪われていきます。
しかも,認知症でボケていると被害者意識も希薄になり,また情報不足からクーリングオフなどの法律上の保護も受けられずに,いつのまにか財産を失い,さらにはクレジット契約をさせられて大借金まで負ってしまうことがあります。
そうしたことを防ぐためには,やはりその認知症の程度に応じた,法定後見制度を利用することが必要になります。

次に、紹介例3として,「長男が脳梗塞で倒れて入院中の母の預金を無断で使っている?!」です。
例えば,ここでは,仮にBさんとしておきますが,そのBさんは夫に先立たれ、一年前に脳梗塞で倒れ認知症となり、自分では預貯金などの財産の管理ができる状態ではありません。
Bさんには長男甲と長女乙がいますが、Bさんの財産は長男甲が管理しています。
長男甲は飲食店を経営していますが資金繰りが上手くいかず、Bさんの預貯金を勝手に引き出して使っているようです。
長女乙としては、このままではBさんの老後のことを考えて貯めてきた生活資金がなくなってしまうのでは?!そのことがとても心配で、どうしたらいいか悩んでいます。
この場合,Bさんの住所地を管轄する家庭裁判所に、「後見開始の審判の申立て」をして、成年後見人を選任してもらい、その成年後見人にBさんの財産管理をしてもらいます。
成年後見人はBさん(この場合のBさんのことを「成年被後見人」といいます。)の財産すべてを管理するのが職務ですから、長男甲からBさんのすべての財産を引き渡してもらうことができます。これで長男甲の使い込みを防ぐことができます。

最後に,紹介例4として、「知的障害を持つ子の将来が心配で仕方がない!」です。
この場合,親が元気なうちはいいのですが,その親が認知症になったり,亡くなってしまうと,その後に残された知的障害を持つ子のことがとても心配になります。
そんなときは,やはり法定後見制度を利用することになりますが,個人の後見人1人に何十年もお願いするのは難しいので,この場合,法人に後見人になってもらいます。
法人であれば,認知症になったり,亡くなることもないですし,本人と気の合う担当者を選ぶことができます。また,途中で担当者を代えることもできます。
このような悩みや問題は、決して珍しいことではありません。
たとえ認知症になったり、知的障害を抱えていたとしても、自分らしい人生を送る権利は当然にあるわけですから、紹介例でお話ししたトラブルや悲劇が起きる前に、それを防ぐための「転ばぬ先の杖」として、この成年後見制度を積極的に活用すべきでしょう。



次回は、老後の財産管理の方法として、最近注目されている信託制度についてお話しさせていただきます。