最近注目されている財産管理のしくみ−信託制度−

今回は、老後の財産管理や遺産承継の方法として、最近注目されている信託制度についてお話しさせていただきます。

信託は読んで字の如く、人を信じてその人に自分の財産を託する、つまり預けるということです。そして、預った人は、預けた人との約束にしたがって、その預った財産を管理・運用・処分等して、そこから得られる利益を、預った人と預けた人との約束で決めた人にお渡ししますというものです。

信託のしくみを図にすると次のとおりです。

自分の財産を預ける人を委託者といって、その財産を預かる人を受託者といいます。また、その預ける財産を信託財産といいます。そして、利益の給付を受ける人を受益者といいます。また、受益者が受託者に利益の給付を求める権利のことを受益権といいます。

つまり、信託とは、委託者が信託契約や遺言等の信託行為によって、一定の信託財産を受託者に移転し、受託者は信託行為によって定められた信託目的に従って、信託財産を管理・運用・処分等をして、得られた利益を受益者に給付するしくみです。

信託の活用例としては,委託者と受託者との信託契約によって、委託者本人やその配偶者の老後の生活資金の定期的かつ安定的な給付を目的として、委託者の持っているアパートを信託財産として、受託者に信託して、委託者は自分が生きている間は、自分が受益者としてアパートからの家賃収入を得て、自分が亡くなった後は、委託者の配偶者に受益者を変更して、その配偶者が受託者からアパートの家賃を受け取ることとすることが考えられます。この場合の受益者が受託者からアパートの家賃を受け取る権利を受益権といいます。

この信託の大きなポイントは、委託者の財産を受託者に移すということにあります。
これにより、信託には、財産管理機能、意思凍結機能、倒産隔離機能、そして、権利転換機能という主に4つの機能があります。
まず、財産管理機能ですが、これは、信託は成年後見制度などの代理制度と異なり、財産の管理・処分権限というものは受託者だけにありますので、高齢者や障害者などの委託者が、言葉巧みな悪徳業者などの悪質商法や悪質な親族からの経済的被害を受けたり、委託者自らの浪費などにより、財産を失うことがなく、財産管理が徹底されるということです。



次に、意思凍結機能ですが、これは,委託者の意思である、信託目的やその目的を実現するための信託契約の内容というものは、その委託者が認知症になろうと亡くなろうと、それらに影響されることなく実現されるということです。
これは遺言では実現が困難な、本人の亡くなった後の財産管理ができるということです。例えば,20歳そこそこの子供を残して亡くなった場合、遺言や法定相続では、その亡くなった時点で、その相続財産は20歳そこそこの子供に引き継がれてしまいます。そうなると、その資産が多額である場合、分別のあまりない子供は、先々のことを考えずに高級自動車を買う等の浪費をしてしまったり、人にだまされて財産を失ってしまうかもしれません。
それが、信託であれば、その子供が、例えば30歳になるまでは、月々生活費としていくらとか、30歳を過ぎたら残りの全財産を引き継がせるなどの管理ができるので、その財産を残す親も子供も安心ということになります。
また、遺言があっても、相続人全員でその内容と異なる話し合いをすることができますので、その話し合いがまとまれば、遺言の内容が変更され、そうなると,被相続人の意思が尊重され実現されることがなくなってしまいます。
それに対して信託の場合は、そうした相続人の関与を受けることなく、その内容を受託者が実現してくれますので、より確実に被相続人の意思が尊重され実現されます。


次に、倒産隔離機能ですが、これは、信託財産については、信託財産の独立性から、それが受託者に帰属している財産であるにもかかわらず、受託者に対する債権者はそれを差し押さえることができませんし、受託者が破産したとしても、破産財団に組み込まれ処分されてしまうこともありません。
また、信託財産が委託者に帰属する財産ではないことから、委託者に対する債権者がそれを差し押さえることもできませんし、委託者が破産したとしても、破産財団に組み込まれ処分されてしまうこともありません。
つまり、信託によって、信託財産自体は、誰の責任財産にも帰属しないことになりますので、財産を安全確実に守ることができます。特に自宅を信託財産にしておけば,住むところがなくなることがないので,安心して生活し続けることができることになります。



最後に、権利転換機能ですが、これは少しややこしい話ですが、信託財産は信託受益権という権利に転換され、この信託受益権を証券化することで、これを流動化させて資金調達をしたり、信託受益権を元本受益権(信託財産を返してもらう権利)と収益受益権(信託財産からの家賃や利息等の収益を受け取る権利)に分けることで、たとえば、委託者が亡くなった後で、残された配偶者の生活保障のために、信託財産である不動産等が相続分けで売却等されてしまわないように、また、その後、配偶者が再婚して、その信託財産がその再婚相手のものにならないで、委託者の子供や親族のものになるように、配偶者には、その不動産等から得られる家賃等の収益を受け取る権利(収益受益権)のみを与え、その配偶者が死亡した時に信託を終了させ、その信託財産(元本受益権と収益受益権)を委託者の子供や親族に相続させることができるということです。


なお、成年後見制度を利用すれば、認知症になった人に対しては、その財産を管理して守ってくれますが、高齢で身体が不自由な人や身体に障害がある人に対しての財産管理は、認知症でなければ、成年後見制度は利用できません。
この場合は、この信託を利用すれば、受託者がその財産を管理してくれますから、本人は悪徳業者や悪質な親族にだませれて財産を失うこともなく安心して生活し続けることができます。
また,成年後見制度を利用して、保護者である成年後見人が選ばれると本人に選挙権がなくなったり、欠格事由により会社役員を辞めなければならない等の不利益を受けることになります。信託の場合は本人がそのような不利益を受けることがなく、これらを避けることができます。

今後は、こうした信託の機能を利用して、安全確実な財産管理や争族を避けるための遺産承継への活用がますます期待されます。